鹿鳴館サロン
鹿鳴館について コンセプト 初めていらっしゃる方へ system イベントカレンダー イベント報告 サロン日報 トップページへ


官能文学辞典

   その壹. 【ぬりかべ】
   その貳. 【子泣き爺】
   その參. 【ろくろ首】
   その肆. 【トイレの妖怪】
   その伍. 【人魂】
   その陸. 【ぬらりひょん】
   その漆. 【からかさ小僧】
   その捌. 【垢舐め】
   その玖. 【河童】
   その拾. 【化け猫】
   その拾壹.【狐に化かされる】
   その拾貳.【一反木綿】
   その拾參.【小豆洗い】
   その拾肆.【タクシーの怪】
   その拾伍.【くねくね】
   その拾陸.【口裂け女】

 


その陸. 【 ぬらりひょん 】

 それは昔、昔のことだった。
 小僧が昼寝から目覚めると、隣から美しい声が聞こえてきた。小僧が密かに恋こがれる隣の若い未亡人の声だった。しかし、声はひそひそ声でよく聞き取れない。一緒に話す小僧の母の声、こちらはしっかりと聞こえた。
「水よ、水じゃなけりゃだめよ。煮たりしちゃだめよ」
 聞き耳をたてるが未亡人の声はやっぱりよく聞き取れない。
「あんな大きいの怖いわ」
 小僧にはそう聞こえた。
「今朝のでしょ。あれぐらいがいいのよ。水でぬらり(ぬめぬめ)となるから」
「袈裟来た坊主は、頭が大きくて恐ろしいわ。それに水にいたんじゃ、掴みようもないでしょ」
 小僧にはそう聞こえた。
「それがいいのよ。ひょんな形になって、そこがいいのよ」
「でも、かたちがひょんになって、ぬらりして、つかみどころもなければ入らんて」
 その後は、母の声さえひそひそとなって何を話していたのか分からなくった。
 翌日、小僧は仲間を集めて言った。
「本当にいるんだよ。妖怪だよ。川の中にいるんだ」
「嘘だあ。妖怪なんかいないよ」
「いるんだよ。全身がぬらりとして袈裟を着た坊主のように見えるんだけど、川から助け出そうとしても、手を掴んでも、ひょんと形が変わるし、抱きかかえようとしても、ひょんと形を変えるんだ。そうしている間に助けようとした人は水の中に入れられちゃうんだ。恐ろしいヤツなんだ。水の中に入ってそいつを見ると、ひょんな形で大きくて恐ろしいんだ」
「そんな妖怪いるもんか。じゃあ、なんていう妖怪なんだよ」
 小僧は悔しかった。
「ぬ、ぬらりぬらり、ええと、ぬらいひょんって言うんだ」
 そこに小僧の母が現れて、小僧の頭をおもいきり叩いた。小僧は大泣きした。それで、ようやく小僧の仲間も妖怪ぬらりひょんが恐ろしいヤツだと信じたんだそうだ。




出典『妖怪は変態』山口師範著 鹿鳴館出版局

その漆.【からかさ小僧】 へ

Illustration:アキ Text:山口師範 


官能文学辞典
プレゼント文庫

鹿鳴館宣言

妖怪変態論

緊縛図鑑

性異常事例辞典
書評

文章実験室課題

風景違い

小説「窓」

感想会私的書評

感想会私的書評

鹿鳴館の歴史